定石といふもの

 現実においては定石など存在しない。
 そもそも「定石」という言葉は囲碁用語だ。囲碁において長年探求された、攻撃と防御の布陣手順……その論理的かつ効率的な石の配置が定石と呼ばれるものだ。囲碁の世界は変化が緩やかなため、この定石が変化する事は少ない。それでも長年の間に小目(こもく)の変更や、新たな戦術の開発により変化は発生している。
 戦争においての定石は、二度の世界大戦を経験してなお時々刻々と変化している。一昨日まで無敗(かと言って勝てるわけでもないw)の塹壕による防御線が、昨日の戦車によって一気に蹴散らされ。昨日まで爆弾を抱えて飛んでいた鈍重な爆撃機が、今日は精密誘導弾をぶら下げた軽快な戦闘攻撃機に取って代わっていたりする。
 創作の世界も同様だ。大昔に多用されていたデウス・エクス・マキナは、今や侮蔑の対象となり。個人の感情を通して世界を眺めていた私小説は、客観的に世界を描写する写実的な小説へと移り変わる。
 もう一度言おう。物事には定石など存在しない。あるのは論理に裏打ちされた最適化手段であり、それは常に変化するものなのだ。


 ……とか言ってみる。たまには偉そうな事を書かないと、頭が鈍るから。(を